2008年12月1日月曜日

新疆旅 キジル1~終章(10)




キジル千佛洞ピクニック



                   うき がく



  千佛洞行きのトラックが来ると雑貨屋のウイグル美人が言っていたが、当てには出来ない。ガタピシの四輪車が来ては、僕らを珍客と見て眺めすかしながら止まっては過ぎ去る。それも時たまのこと。トラックに便乗しよう、なんてえらい話だ。

 クチャ(庫車)から路線バスに乗り、郊外のヘイズ(黒孜)村の入り口あたりに下車してもうかれこれ二時間近くたっていた。村はずれの溜まり場は、野外特設のビリヤード、食堂、露店の集まったバス発着所でもある。

 その目印のない、衆人承知の簡素な停留所にやってくる村人の三々五々のあいさつに合せるように、僕たち三人は現地ペースの弛緩した時間に慣れようとしていた。
 僕たちは、雑貨商店小町美人のご推薦ともいえる二つ三つの露店をひやかしにかかった。

お手製のゆで卵や、いもデンプンをゼリー状にした軽食、ヨーグルトが雑然と並んでいた。人待ちげにしては愛想のない店番達が、佇んでいるだけが絵になる時間だった。
 道路の端に座り込んだその単品屋の中では、唯一長椅子が用意されたデンプンゼリー屋の前で、僕たちは三人並んで刺繍仕事に忙しい小町娘の手元を見つめていた。

 ヨーグルト屋に目をやると、お客を待つおばさんが、しゃがみ上手な格好ではにかんだように、食べないかいと合図をおくる。隣の同じヨーグルト屋は、痩せっぽちの男の子が主人だが、遠くからの声に応え早々と店を畳んでしまった。

灌漑用水路の水を汲みにくるイスラム食堂の若奥さん、雑貨屋と用水の間の木陰で編み物をする娘さんたちが歌を口ずさむ。精悍なウイグルの男達が、小麦の麻袋をトラックに積み込む。

 通りの向かいで興じるビリヤード周りがめまぐるしく人が入れ替わる男の遊びの世界なら、こちらは悠々と働く女性の溜まり場の世界といったところ。朝のうち曇っていた空から日がさす、凌ぎやすい小旅行日和になってきた。北京時間でもう、十一時近い。

 乗り合いトラックは来ないが、代わりにバスが止まった。途端にゆで卵売りのおばさん達がバスに向かって賑やかに売り込みをかけた。周囲が急に忙しくなってきた。


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