2011年12月9日金曜日

放浪者 ペルシャにて


125日 30㌦両替 188

イラン国境

そろそろ急がなくてはいけない。アルジェ事件で心配しているだろうから家にポストカードを出さなくては。アフガニスタン・カブールには12月15日前に行きたい。金はどうしても受け取らなくてはこの先がおぼつかなし、祈るだけだ。


(記憶遥か)

トルコ側の国境はスムースな手続きでよかったが、イラン側はトラックが長蛇の列でいつ乗っているバスが走りだすかもわからない。国境はむき出しの荒野が見えるだけ。数珠つなぎの車両からは警笛が鳴るでもなく、交易の関所に慣れきった人々が休息の時間を楽しんでいる時間があった。

バスを降りて荒野を見渡していたら、車両の間にひげ面の大男がこれも猟犬の一種だと思うが大きな犬とおたがいジャンピングしながらたわむれていた。私は「その犬はあなたの犬なの?」と尋ねたら、彼は「アルゼンチンからずうっと一緒さ」と答えた。

私は遥か南半球のアルゼンチンから来ているジーパン姿のラフないでたちの大男が放浪者であり「私も同じ放浪者なのだ」と悟った。そしてその証拠を確かめるようにこれで何度目か、ほっぺたをつねった。



テヘラン・バス発着所

テヘランの大きなバス発着所からイスファハン行の夜行便に乗るまで小一時間の暇がある。私は好日山荘の山用の羽毛ジャケットが着慣れていたので、テヘランの夜の寒さはさほど感じなかった。でも、土くれのだだっぴろい駐車場の夜中の冷え込みようは地元のイラン人にはことのほか今夜は寒いと感じるようで、吐く息の白が場をおおいひげ面の男ばかりの群れがたき火に集まる一種異様な雰囲気があった。


イラン人には私の鮮やかなブルーの羽毛ジャケットとそのモコモコのスタイルが夜の闇に同化する彼らの土色の集団色に紅一点、異様に映えたのだろう。イラン人は一斉に私という色に魅かれるように目線を集中させ、面白いものをみつけたとばかり口々に呪文を唱えるような声をあげ、時に笑い声さえも発っしながら私に向かって集まってきた。そのおしくらまんじゅうは、奇妙な余興だった。